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【観光インタビュー】高山市のインバウンド戦略、新型コロナによる影響と観光復興への道すじ

多くの外国人観光客で賑わい、インバウンド誘客の成功モデルとされてきた岐阜県高山市。その高山市が、2020年の新型コロナの感染拡大により、どのような影響を受け、どのように観光の復興を成し遂げようとしているのか。市のインバウンド戦略を担う高山市海外戦略課の畑尻広昌課長へのインタビューをもとにレポートする。

1.高山を訪れる外国人観光客

高山市を訪れる外国人観光客は2011年以降増え続けており、2019年の外国人宿泊者数ははじめて60万人を超えた。

訪れるたびに観光客が増えている印象の高山だが、じつは日本人と外国人を合わせた観光客の総数は10年前からそこまで増えておらず、2009年と2019年の比較では、入込者数で1.17倍(404万人→473万人)の増加、宿泊者数でも1.1倍(205万人→227万人)の増加にとどまっている。一方、外国人観光客は飛躍的な伸びをみせており、2009年と2019年の宿泊者数を比較すると4.16倍(14.8万人→61.2万人)になっている。緩やかに減少している国内旅行者を、急増する外国人観光客が補ってきた構図が見て取れる。

2019年に高山を訪れた外国人の国籍を見ていくと、1位が台湾(103,763人)、2位が中国(61,841人)、3位がタイ(52,945人)であり、以下、香港、スペイン、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、イタリアと続いていく。訪日外客数の内訳と見比べたときに高山で特徴的なのは、東アジアに偏りすぎない観光客の地域別構成だ。相対的に東アジアからの観光客が少なく、ヨーロッパからの観光客が多い。訪日全体では6%に過ぎないヨーロッパからの観光客数は、高山では23%を占めている。

2.なぜ高山はインバウンド誘客に成功してきたのか?

インバウンド誘客の成功モデルとして紹介されることも多い高山市は、インバウンドという用語が注目されるはるか以前から外国人観光客の誘客に力をいれてきた。高山市は1985年の国際観光都市宣言以来、30年以上にわたって官民が協力して外国人誘客の取り組みを続けており、外国語のWebサイトも1996年には開設している。ちなみに日本が国として観光立国宣言を出したのは2003年だ。

近年のインバウンド関連の施策をみると、Webサイトの多言語化や多言語パンフレットなどの情報発信の拡充、Wi-Fiの整備や地域通訳案内士の養成などの受入体制の強化、「杉原千畝ルート」や「北陸・飛騨・信州3つ星街道」などの広域の観光ルート形成、交通機関との連携、海外販路開拓などが並ぶ。これらの施策リスト自体、とくに目新しいものではないが、たとえば情報発信の内容を見てみると、その対応言語の数という点でも質という点でも圧倒される。

11言語に対応する高山の公式観光サイト

Webサイトは11言語、多言語パンフレットは10言語、お出かけ散策マップは11言語に対応している。

ただ対応言語数が多いというだけではない。多言語パンフレットの場合、同じ内容、同じ構成を翻訳展開しているのではなく、表紙の写真から構成、文章量にいたるまで、言語ごとにローカライズされ、よりその言語の読者が手に取りやすいように工夫されている。たとえば、東南アジアの国々にたいしては冬の雪景色を、山登りのアクティビティが人気の韓国に対しては飛騨の山々を、それぞれメインビジュアルに据えている。ドイツ語版は写真の比重を下げ、文章で読ませるコンテンツを中心に作られている。

ムスリム旅行者の受入にも積極的であり、市内の事業者が取り組んでいる「ムスリムフレンドリープロジェクト」に高山市としても参画し、飲食店や礼拝可能施設などを紹介した英語とインドネシア語のマップを作成している。

外国人観光客に人気の「京や」:お礼として送られた各国紙幣が壁を埋め尽くしている

今日の高山市のインバウンド誘客の成功には、もちろん、こうした一連の施策が重要な役割を果たしてきたが、高山市海外戦略課の畑尻課長によれば、そうした施策が成功してきた要因として、高山の人々の外からのお客さんを歓迎し、大切にする気風が大きかったという。高山の人々の温かい対応にふれたひとつひとつの心地よい体験が、SNSの口コミを通じて拡散され、それがあらたに高山に人を呼び込むという流れを作ってきた。

インバウンド誘客の最大のメリットは、日本人観光客の少ない季節や平日に外国人観光客を呼び込めることで、観光ピークが平準化できるという点につきる。この平準化による恩恵を、市内の観光に携わる事業者は享受しており、また、多くの市民も外国人観光客を好意的に受け止めてきたこともあって、これまでの高山では大きなトラブルもなく、国際的な観光都市としての発展を遂げてきた。

3.新型コロナウィルスによる高山観光への影響

人通りのまばらな上三之町付近

だが、新型コロナウィルスの感染拡大にともなって、高山の街の景色は一変した。筆者が訪れた2020年8月末、1年前には平日でも外国人観光客でごった返していた古い町並みは、わずかに近隣から訪れたとみられる日本人が散見される程度で閑散としていた。

上半期の観光客入込数をみてみると、1月だけは対前年比を上回り、好調な出足となったが、新型コロナウィルスの影響が出始めた2月には一転して減少に転じ、3月は半減、緊急事態宣言下の4月〜5月は90%を越える減少、6月にやや持ち直している。一方、外国人宿泊者だけに目を向けると、影響はより大きく、早くも3月には90%の減少、4月以降はほぼ壊滅的な数値となり、その状況は現在も変わっていない。

観光客減少の直接的な影響を受けているのは宿泊業、飲食業、小売業といった分野が中心だが、高山の観光業の裾野は幅広く、影響はとてつもなく大きい。2019年の観光客全体の高山市への経済波及効果は約2150億円とされており、このうち外国人宿泊者が占める割合は20.7%、約445億円にも達していた。新型コロナウィルスは、高山からこの巨大な経済波及効果を一気に奪い去ろうとしている。

インバウンドの回復時期がいまだ見通せないなか、アフターコロナに向けてこれまで築き上げてきた海外市場における高山ブランドを維持しつつ、あらためて国内旅行者を呼び込まなければいけない、という難しい舵取りを、高山市は迫られている。

4.アフターコロナに向けた高山市のインバウンド観光プロモーション戦略

高山市では、旅行の自粛が継続するフェーズ、入国制限が段階的に緩和されるフェーズ、入国制限が解除されるフェーズ、という形でフェーズを区切り、フェーズごとのプロモーション戦略を検討している。当面は、タイ、台湾、豪州など、比較的近距離にある国々に注力していく方針だ。

今年度、台湾やオーストリアで予定されていた旅行博への出展が中止となるなど、計画されていた誘客プロモーションも変更が余儀なくされている。具体的なツアー造成につながる可能性の高い旅行博の中止は痛手となるが、その分、高山ブランドを維持するため、デジタルでのプロモーションに力をいれようとしている。

高山市の公式Facebook Visit Takayama より

とりわけ印象的なのはFacebookでの取り組みだ。高山市の公式FacebookであるVisit Takayamaでは「Shining People(輝ける人々)」という一連の企画を投稿しており、高山の観光に携わる一人ひとりの「人」にスポットをあて、海外に向けてコロナ収束後に再び高山に来て欲しいというメッセージを送り続けている。この企画の背景には、建物や街並みだけでなく、高山の「人」こそが高山の観光人気を築き、支えてきたという思いが込められている。

海外との往来が難しいなか、日本在住の外国人YouTuberを活用したプロモーションも実施している。一連のプロモーションでは、これまで以上に郊外や屋外のエリアが取り上げられており、三密回避という、コロナを意識した内容となっている。

最後に新型コロナの影響が影を落としはじめた2020年の4月にまとめられた「高山市海外戦略」について触れたい。

海外戦略とは、「地域経済の活性化につなげる取り組みであるとともに(中略)多文化共生に対する意識を高める取り組み」であると定義する高山市は、外国人観光客の誘客から国際交流の活性化にいたる詳細な海外戦略に関する政策リストをまとめている。興味深いことに、一連の政策の最終的な成果指標は、「「外国人で市内がにぎわい、海外との人や物の交流が進んでいる」と感じている市民の割合」といった「市民満足度指標」であり、そこには具体的な数値はほとんど記されていない。観光客の数を増やす、消費金額を増やす、といった短期的な経済の活性化だけにとらわれず、多様な価値観が交錯する町づくりをつうじて豊かさを生む土壌を育んでいこうとする考え方が、高山には根ざしている。

高山市海外戦略課 畑尻広昌課長

高山市役所

文責
株式会社アクアリング・グローバルストラテジー
代表取締役社長 長崎 亮

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