| セントリップ・ジャパン編集部
【観光インタビュー】白馬村観光局 福島洋次郎氏 白馬のインバウンド誘客の取り組みとコロナ禍を踏まえた今後の観光ビジョン
新型コロナウィルスに対する緊急事態宣言が一応は終わり、政府による go to キャンペーンのスタートで国内からの観光客で賑わいを取り戻し始めた10月初旬、これまでの白馬のインバウンドの取り組みと、コロナ禍を踏まえた今後の観光ビジョンについて、白馬村観光局で福島洋次郎事務局長にインタビューを実施した。
1.これまでの白馬のインバウンド誘客の取り組み
白馬は、良質な雪質と広大なゲレンデが世界的に認知され、2019年には38万人もの外国人観光客が集まった。
1998年の長野オリンピックでは世界中からの視線が集まった白馬だが、意外にも、今日のインバウンドの盛り上がりと冬季五輪はつながっていない。
白馬が海外からの誘客に本格的に取り組み始めたのは、日本政府が「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始した2005年からだ。当時、国内でのスキー人気は陰りをみせ始めていた。
当初、白馬はオーストラリアを主対象としてプロモーション活動をスタートした。冬季五輪を経て国内でのブランド力を高めた白馬であったが、当時を知る担当者によれば、当時のオーストラリアでは、白馬や長野の名前はもとより、北海道以外の日本にも雪が降るという事実さえ、ほとんど認知されていなかったと言う。
そんななか、白馬では、官民をあげて地道にオーストラリアの旅行会社をまわり、白馬の魅力を伝え、旅行商品の造成につなげてきた。また、白馬単体でのプロモーションだけでなく、志賀高原、野沢温泉、妙高高原の4地域と連携してスノーリゾートアライアンスを結成し、広域でのブランディングにも力をいれてきた。
こうした地道な取り組みの成果がみえ始め、少しずつ外国人スキーヤーの数も増えてきた。2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災の影響により、一時的にインバウンド客が減少することもあったが、欧米豪の比率が高い白馬は、アジア諸国との政治的な関係によって大きな影響を受けることは少なく、以後、順調にインバウンド客を増やしてきた。
2019年の年間約38万人のインバウンド客のうち、オーストラリアを中心とする豪州からの来訪が6割以上と圧倒的な比率を占めている。これに欧米を加えると7割を超える。この比率は、アジアからの来訪が8割を超える日本全体のインバウンド事情と見比べると一層、特徴的に思える。
オーストラリアが中心マーケットであることに大きな変化はないが、2022年の北京冬季五輪が決まったころから中国本土からのスキー客も一気に増え始めており、併せて中華圏からの投資も増え始めているという。
日本入国後の白馬へのルートは、欧米豪の観光客の場合、東京から日本に入国し、新幹線で長野へ移動してバスに乗り継ぐか、直通バスでの移動が大半を占める。一方、アジア系のインバウンド客の増加に伴って、中部国際空港セントレアを利用して直接バスで白馬に乗りつけるパターンも増えてきた。
こうした現状に甘んじることなく、白馬は新規市場の開拓にも力を入れている。白馬村観光局がまず新規市場の開拓を行い、ついで民間事業者がそれぞれの立場からセールスを広げるという形で官民の連携がなされている。
2019年はドイツ、スペイン、デンマークなど、欧州の新しいマーケットでのプロモーションを実施したほか、シンガポール、タイ、マレーシアといった、東南アジア市場でのプロモーションにも力を入れてきた。東南アジアからの誘客と並行して、ムスリム・フレンドリー・プロジェクトを通じて、ハラル対応のレストランやお祈りできる施設等の紹介も行っている。
デジタルでのプロモーションは、下記2つのFacebook運用とインスタグラムが中心のシンプルな組み立てとなっている。
それぞれ約13万人、約4万人のフォロワーを抱えているが、運用開始以来、主にオーガニックでフォロワーを増やしてきた。白馬村観光局内で、英語コミュニケーションが可能な体制を整えており、フォロワーとの活発なコミュニケーションが行われている。
2.白馬がインバウンド誘客に力をいれる理由
白馬がインバウンド誘客に力をいれた背景には、従来の日本人を対象としたスキーリゾートビジネスとしての失敗の経験があったという。
都心からの週末・短期間のスキー客の集客に力を入れた結果、スキー客はスキー場と宿泊施設との往復だけで旅を完結させるようになった。結果として、町には人が出ていかないようになり、やがて町は衰退していった。一方、外国人スキー客は、長期間の滞在中、宿泊施設だけでは飽き足らず、やがて町に繰り出し、飲食をし、消費をするようになった。それが新しい店や事業を生み、町に活気をもたらしていった。
コロナ禍においても、短期的に観光の国内シフトをせず、今後もインバウンド誘客を続け、グローバルなリゾートを目指そうとする白馬の原点には、こうした経験があった。
3.グリーンシーズンの集客にむけて
これまで、白馬のインバウンド・プロモーションは、その予算の大部分をウィンターシーズンに向けて投下してきた。しかし、「冬のリゾート地からの脱却」(福島事務局長)に向けて、近年、グリーンシーズンにも力を入れ始めている。
大自然に恵まれた白馬には海以外の自然はすべてある。北アルプスを背景にしたキャニオニングやパラグライダー、湖面でのラウティングやサップ、カヌー、さらに、マウンテンバイクの聖地としての認知度も高まっている。
こうしたグリーンシーズンの魅力を伝えようと、「台湾・香港」の「大自然やアウトドアアクティビティを楽しむ層」をメインターゲットとして、台湾人の有名登山家の白馬招聘や、現地の登山ショップでのセミナー・イベント等、様々な試みを行ってきた。
また、ここ数年、白馬観光開発を中心に、グリーンシーズンに向けて大規模な投資が行われている。一連の投資によって新たに誕生した施設も、アフターコロナに向けたインバウンド誘客の大きな原動力となりそうだ。
4.白馬エリアの宿泊事情
白馬エリアには600を超える宿泊施設が点在している。そのうち、もっとも規模の大きな白馬東急ホテルでも102部屋であり、多くは15〜20部屋ほどの中小規模の宿泊施設が多い。
この背景には、白馬の厳しい環境条例があり、高さや建蔽率等の制限により、景観や自然に影響を与えるような大型施設を建てることができなかった、という事情がある。
中小規模の宿泊施設は、大規模な団体旅行の受け入れをすることができず、FITの受け入れに注力するようになった。このことが、結果として、(一部観光地にみられるような)格安の団体旅行客受け入れによる疲弊、という負のサイクルに巻き込まれることから白馬を救ったのだ。
現在の白馬のインバウンド客のほとんどはFITであり、欧米豪の場合、平均7泊、アジア系でも平均4泊、白馬に滞在していくという。宿泊予約は現地旅行会社やOTAを通じたものが多いが、リピーター層も多く、チェックアウト時に次回の予約をしていく人も多いという。
近年では、外国人がオーナーのホテルも増加しているが、いわゆる外資系の大規模ホテルチェーンではなく、個人や小規模事業者の参入というパターンが多い。彼らの参入により、外国人の嗜好にあった洗練された外観の宿泊施設も増えてきている。
5.新型コロナの感染拡大による白馬への影響と対応
福島事務局長によれば、白馬のコロナ禍の影響は、他地域に比べれば「まだ限定的」とのことだ。
新型コロナウィルスの感染の影響が観光に影を落とし始めたのは2020年3月からだが、下記グラフが示すように、もともとグリーンシーズンの白馬はインバウンドの比率が少ない。
もちろん、全面的な外出自粛となった緊急事態宣言下での観光業は大きなダメージを受けたが、国内誘客だけに限ってみれば、緊急事態宣言後から回復をみせ、go toキャンペーンの本格化した9月に至っては昨年を上回る水準だという。
海外からの観光目的での往来の回復が見通せないなか、今年の冬シーズンの影響は避けられないが、2021年のオリンピック開催を機に海外との往来が回復し、つぎの冬シーズンにはインバウンドも回復してくれば、と福島事務局長は期待している。
今年の冬シーズンに向けて、白馬が力を入れようとしているのはエクスパット(Expatriate)向けのプロモーションだ。
コロナ禍は、海外からの訪日の足を止めると同時に、在住外国人の帰国の足も止めた。クリスマス休暇、帰国することができなかった大都市圏の外国人を対象として、クリスマスから年末年始を白馬でゆっくり過ごしてもらうように提案しようというのだ。大自然とアウトドアアクティビティ、そして大都市圏からのアクセスの良さ、コロナ禍での休暇を楽しむための条件は、白馬にはすべて整っている。
将来の白馬への来訪を促すための準備にも余念がない。
白馬村Facebookでのコミュニケーションをみても、白馬に行きたいけれど行けない人があふれている。そうした人々を対象に、ネットでのライブ中継などを実施し、白馬の美しい風景を見せ、ふかふかのスノーコンディションを見せて期待値をあげていく方針だ。
同時に、将来の来訪時にこの期待値を下回らないよう、受け入れ環境の整備にも力をいれている。とりわけ白馬が注力しているのは景観の改善であり、無電柱化の推進とともに、白馬としてのデザインコードを策定し、スキー場のサインや街灯デザインなどの統一感を高めようとしている。
6.今後の白馬の観光ビジョン:冬のリゾート地からの脱却
白馬は冬のリゾート地から脱却し、日本ではじめてのマウンテンリゾートとなることを目指している。ベンチマークは日本の他の観光地ではなく、シャモニー=モン=ブランであり、ひいてはマウンテンリゾート版のハワイだ、と福島事務局長は熱く語った。
ハワイの人々が朝仕事前にサーフィンをしてから仕事に行くように、冬は朝のパウダースノーでひと滑りし、夏は爽やかな高原を散歩してかから仕事にでかけるような、そんなリゾート・ライフスタイルが想起できるような場所を、白馬は目指している。
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