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【熊野古道伊勢路】名古屋から行く熊野三山巡りモデルコース

2004年にユネスコ世界遺産に登録された熊野古道。道そのものが世界遺産に認定されるのは、スペインとフランスを結ぶ「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」と熊野古道の2例だけということもあり、世界的にも人気の観光地となっています。

熊野古道は1本の道ではなく、熊野エリアに向かう5本の道の総称です。それらの道が目指したのが、熊野三山と言われる3つの神社(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)と1つのお寺(青岸渡寺)です。

この記事では、名古屋方面から熊野三山を巡るコースを紹介します。名古屋から熊野へは2021年の熊野尾鷲道路の全線開通によってより容易にアクセスできるようになりました。

熊野古道と熊野詣

熊野古道を少し歩いてみると、その道の険しさに驚くかもしれません。

平安時代の後期(11〜12世紀頃)、こんな険しい道を越え、天皇の位を譲った上皇が繰り返し熊野を訪れるようになります。例えば、白河上皇が9回、鳥羽上皇が21回、後白河上皇に至ってはなんと34回も訪れました。これを「熊野御幸」と言い、1回の熊野御幸には1ヶ月ほどかかったようです。こうした熊野詣はやがて武士や庶民にも広まり、熊野に向かう道中には蟻が行列をなすように多くの人が列をなしたことから「蟻の熊野詣」と言われたそうです。

なぜ、こんなにも険しい山道を越え、長い時間をかけてまで、人々は熊野の地を目指したのでしょうか。

古来、熊野は深い山々に閉ざされた辺境の地でした。深い森、切り立った崖、落差のある滝、立ち並ぶ奇岩。人を容易には寄せ付けない熊野の自然に人々は畏れを抱き、ときには挑み、やがては崇拝するようになったのです。

この熊野の地に降り立ったとされる神々が熊野権現です。熊野三山への信仰は、神と仏を合わせて信仰する神仏習合と深く結びついており、権現とは、仏様が仮の姿でこの世に現れた神様のことです。この神仏習合のもと、阿弥陀如来がスサノオ命、千手観音がイザナミ命、薬師如来がイザナギ命など、仏様と神様がそれぞれ関係づけられて祀られています。

熊野権現が降り立った辺境の地、そこに苦難の道を乗り越えて詣でることが救いにつながる。そんな信仰心と熊野の自然が織りなす美しい景観への憧れが結びつき、熊野詣の大流行がおこったのでした。

熊野三山の巡り方

少し前置きが長くなってしまいましたが、そんな信仰の道、熊野古道のゴールであった熊野三山を巡ってみましょう。三つの社はそれぞれ20〜40キロほど離れていますが、クルマやバスツアーを利用すれば1日ですべて周りきることも十分可能です。

かつては京都からの移動が前提であったため、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社という順番でお参りしたそうですが、いまはとくに決まりはないので、それぞれの移動手段に応じて、巡りやすいルートでお参りするといいでしょう。この記事では、名古屋からクルマでの移動を前提に、もっとも遠く、参拝にももっとも時間がかかる熊野那智大社からスタートし、熊野速玉大社、熊野本宮大社の順に巡るルートを紹介しています。

熊野那智大社と那智大滝

熊野古道 中辺路 大門坂

いきなり熊野那智大社にクルマで乗り付けてしまうのではちょっと味気ないので、手前の大門坂バス停付近にある無料駐車場にクルマを停め、熊野古道を歩きながら往時の熊野詣気分を味わってみるのはいかがでしょうか。

野古道中辺路 大門坂の入口
苔のむした美しい石畳が続く

駐車場にクルマを停めてから車道を少し登っていくと、すぐに「大門坂」という標識が目に入ります。車道から逸れて左手に進むと、ほどなく樹齢800年と言われる夫婦杉が現れ、そこから美しい石畳の道が続いていきます。大門坂は5本ある熊野古道のうち、熊野三山を直接結ぶ「中辺路」という名のメインルートの一部で、熊野那智大社にいたる直前の旅のハイライトとも言える区間になります。

雨の後でより神々しさの増す大門坂

大門坂の長さは約600m、高低差も100mほどあります。雨の後は神々しい雰囲気が増して素敵なのですが、石畳がとくに滑りやすくなっているので、足元に注意して進みましょう。

ちなみに、大門坂でのハイキングや長い階段を避けて熊野那智大社にお参りしたいのであれば、青岸渡寺駐車場を利用するといいでしょう(駐車料金はかかりませんが、駐車場へのアクセスに800円の通行料が必要です)。

熊野那智大社と青岸渡寺

熊野那智大社の御社殿

大門坂を抜けると、那智山参道入口があり、ここからさらに長い階段を登っていくと、ようやく熊野那智大社の本殿にお参りすることができます。

本殿までは断続的に473段の階段が続く
お清めの護摩木を炊き上げる

熊野那智大社の本殿から右手に進むとすぐに青岸渡寺の本堂があります。大社と青岸渡寺の敷地には明確な境界がありません。熊野の神仏習合の名残がつよく感じられる場所になっています。

歴史ある青岸渡寺の本堂
青岸渡寺境内から望む那智の滝

青岸渡寺の本堂は南紀でもっとも古い建物の一つとされ、国の重要文化財に指定されています。境内の北側に進むと展望台があり、那智の滝と朱色の三重塔を一望することができます。遠くから聞こえる滝の音が神秘的な雰囲気を醸し出しています。

三重塔手前から撮影した那智の滝

青岸渡寺の境内を抜け、三重塔に向かって階段を降りたあたりも人気のフォトスポットです。三重塔をメインに、展望台からとはちょっと違った画角の写真を収めることができます。また、仏像が安置されている三重塔に入ることもでき、塔の上層からは太平洋を望めます(拝観料300円)。

那智大滝と飛龍神社

三重塔を越えたらひたすら道を下り、さらに滝の方へ近づいてみましょう。

落差133mの那智の滝は、日本三大名瀑の一つに数えられ、1段だけの滝としては日本一の落差を誇っています。間近で見る滝の迫力は圧倒的! 一直線に流れ落ちる大瀑布は、古くから人々に神聖視されてきました。

飛龍神社の御瀧拝所舞台からの眺め

滝の下には熊野那智大社の別院である飛龍神社があります。拝観料(大人300円、小・中は200円)がかかりますが、滝の水しぶきを浴びるほど、滝壺に近づくことができるので、ぜひお参りしてみてください。

急な階段を降りた先から滝が望める
ご神体として滝が祀られている

那智の滝からクルマを停めた大門坂バス停の駐車場までは、歩くと30分ほどの道のりです。「那智の滝前」バス停から「大門坂」バス停までは路線バスも出ているので、タイミングがあえば、帰りはこちらを利用するのもおすすめです(約6分、250円)。

熊野速玉大社と神倉神社

熊野那智大社に続いて、熊野速玉大社に向かいましょう。熊野那智大社からの熊野那智大社への距離は約20km、クルマでの所要時間は約40分ほどです。

熊野速玉大社

熊野速玉大社の御社殿

熊野速玉大社は新宮市の市街地に位置しており、JR新宮駅からも歩いて15分ほどの距離にあります。元々は神倉神社の「新宮」として造られたのがはじまりとされ、それが「新宮市」の名前の由来にもなっています。

太い注連縄のかかる神門
上皇の熊野詣の様子が描かれた曼荼羅

神門を越えた先に横一列に並ぶ5つの社殿の鮮やかな朱色がとても美しく、印象的です。それぞれの社殿には、熊野十二権現が祀られています。

境内には、天然記念物に指定されている推定樹齢1,000年と言われるナギの他、熊野速玉大社に残る国宝などが展示された神宝館もあります(入館料500円)。

神倉神社

「新宮」である熊野速玉大社から1kmほど離れたところには、「元宮」とされる神倉神社があります。この神社の御神体であるゴトビキ岩という巨岩に、熊野の神々が最初に舞い降りたという伝説が残っています。

神倉神社の御神体であるゴトビキ岩

神々の舞い降りた地、ということで、人が近づくのは容易ではなく、鳥居をくぐった先には絶望的な急階段がそびえ立っています。この階段をよじ登った先にゴトビキ岩が鎮座し、そこからは熊野の市街地とその先に広がる海を一望することができます。

鳥居を超えるとすぐに急階段
ゴトビキ岩から望む新宮市内

神倉神社の階段、「538段」という数字や言葉だけでは表現しきれないのですが、なかなか衝撃的な急勾配で、今回の熊野三山巡りを通じて最大の難所かもしれません。

水の溜まった岩間からカニが顔を出す
人間もカニ歩き

登りきったなりの満足感は間違いなく得られると思いますので、歩きやすい靴でチャレンジしてみてください。

熊野本宮大社と大斎原

熊野三山巡り、最後は熊野本宮大社に向かいましょう。熊野速玉大社から熊野本宮大社までは約35km、熊野川に沿った国道168号線を上流に向かい、所要時間は50分ほどです。

熊野本宮大社

熊野本宮大社は田辺市本宮町に位置し、日本全国に3,000社以上あるとされる熊野神社の総本宮です。熊野三山のなかでもとりわけ古式ゆかしい雰囲気が感じられます。

熊野本宮大社の神門、この先は撮影が禁じられている

熊野本宮大社の御社殿の造りは熊野速玉大社とよく似ていますが、鮮やかな朱色の速玉大社に対して、本宮大社の御社殿は檜皮葺という古式な屋根が張られており、落ち着いた色彩が特徴的です。

参道の先に158段の階段が見える
水害に遭う前の熊野本宮大社の様子

大斎原

熊野本宮大社に続いては、歩いて5分ほどのところにある大斎原を訪れましょう。

大斎原は、1889年の大水害で被災するまで熊野本宮大社が建てられていた神聖な場所です。当時の熊野本宮大社は、現在の8倍もの広さがあったと言われており、その名残は日本一の高さと言われる巨大な鳥居からも感じることができます(鳥居から先は神域として撮影が禁じられています)。

豊かに実った稲穂と大鳥居のコントラストが美しい

大斎原の前には田んぼが広がっており、この田で収穫されるもち米は、熊野本宮周辺の銘菓として知られる「釜餅」の原料に使われているそうです。

名古屋から熊野三山へのアクセスとモデルコース

今回の取材では、名古屋からもっとも遠く、参拝時間もかかる熊野那智大社と青岸渡寺からスタートし、熊野速玉大社と神倉神社を経由して、最後に熊野本宮大社を巡りました。

スタート地点の那智勝浦町はマグロの漁港としても有名で、「にぎわい市場」では新鮮な海鮮を味わうことができます。朝8時から営業しているので、三山巡りに向けて、朝からたっぷりごはんを食べて行くのもおすすめです。

朝8時から営業している「にぎわい市場」
新鮮な刺身がお手軽に食べられる
  • 熊野那智大社
    所要時間、大門坂ハイキング含めて約3時間
  • ↓クルマでの移動:約40分


  • 熊野速玉大社と神倉神社
    所要時間:約90分
  • ↓クルマでの移動:約50分


  • 熊野本宮大社と大斎原
    所要時間:約60分

クルマを利用する場合

名古屋から熊野那智大社のある那智勝浦町に向かう場合、まず、東名阪道、伊勢道、紀勢自動車道を経由して熊野尾鷲道路の熊野大泊ICで高速を降りるまでが約2時間30分。そこから国道42号線を経由して約1時間です。休憩時間も含めて約4時間のドライブと見ておくといいでしょう。

公共交通機関を利用する場合

名古屋から電車で熊野那智大社に向かう場合、JR紀勢本線の特急に乗り、紀伊勝浦駅まで乗換なしで約3時間50分です。紀伊勝浦駅からは熊野三山を巡る定期観光バスを熊野御坊南海バスが運行しています(朝の出発なので紀伊勝浦駅周辺に前泊することが前提になります)。

おわりに

2021年の熊野尾鷲道路全線開通や周辺道路の整備によって、熊野方面へのアクセスは格段に良くなり、ますます気軽に訪れられるようになりました。名古屋から向かう場合には、ハイキングが楽しめる熊野古道伊勢路の馬越峠や松本峠と併せて巡ることもおすすめです。熊野三山を目指した古の旅人に思いを馳せつつ、古道に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

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