| セントリップ・ジャパン編集部
【愛知県蟹江町】ユネスコ無形文化遺産 須成祭の舞台、蟹江町をサイクリングで巡る
祭りに迎える神々を賑やかし、なだめるための造形物である山車や鉾は、日本の祭りの風景に欠かすことができないものです。各地域の文化の粋をこらした華やかな飾り付けは美しく、見る人を魅了してやみません。
京都「祇園祭」や飛騨高山「高山祭」に代表される、こうした山車や鉾の出る祭りは、2016年に「山・鉾・屋台行事」として、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本全国で33の祭りが登録されたなかで、もっとも多い5つの祭りが登録されたのが、愛知県です。その5つの祭りのうちの一つ、川祭りとして有名な「須成祭」が行われる「水郷のまち」蟹江町が、今回の一日観光の舞台です。
目次
須成祭を知る
最初に少し、須成祭について紹介しておきましょう。
須成祭は夏の疫病退散と五穀豊穣を願う冨吉建速神社・八劔社両社の祭礼で、400年あまりの歴史があります。祭りは7月の「稚児定め」から10月の「棚下し」まで、約100日間に渡って行われますが、もっとも賑わうのは8月第1土曜日の「宵祭」と、翌日の日曜日の「朝祭」です。
宵祭では、たくさんの提灯をともした巻藁船が祭ばやしを奏でながら蟹江川を上っていきます。
これほどの規模で飾り付けられた祭船が登場する川祭りは珍しく、日本の祭りに関心をもつ多くの見物客で賑わいます。とくに、祭船を通し、祭りの伝統を守るために設計された御葭橋が、船の通行に併せて跳ね上がるシーンが祭りのハイライトとなっています。
土曜日の宵祭が終わると、深夜のうちに提灯台が外され、代わりに人形が置かれ、梅花と桜花で飾り付けられます。この準備を経て、翌朝には「朝祭」がはじまり、今度は車楽船に模様替えされた船が、稚児を乗せて、蟹江川を上っていきます。
川祭りならではの優雅で幻想的な光景が広がる須成祭。日本の文化や祭りに関心があるのであれば、一度は訪れてみたい行事です。
蟹江観光の拠点となる観光交流センター「祭人」
須成祭の期間中でなくても祭りの雰囲気を楽しめるのが、観光交流センター「祭人」です。祭人では、蟹江観光についての情報が得られ、フリーWi-Fiを利用することもできます(開館時間:9:00~17:00(最終入館は開館終了時間の30分前)、休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)および年末年始)。
施設2階には、須成祭に関わる様々な展示が行われており、プロジェクションマッピングや最新のVRゴーグルを使って、須成祭を疑似体験することも可能です。
さらに祭人では、蟹江町の特産品を販売しているほか、飲食スペースもあるため、ランチ等で利用することもできます。とくにおすすめのメニューは、蟹江町特産の白イチジクを使ったカレー。地元の酒蔵の清酒で煮込んだイチジクのジャムがふんだんに使われており、イチジクのつぶつぶした食感が魅力です。
祭人はJR蟹江駅北口から1キロほどのところにあります。祭人までは、歩くこともできますが、町内巡回バス「お散歩バス」の利用も便利です。
祭人ではレンタサイクルの無料貸し出しを行っており、この先の蟹江観光は自転車で巡ることができます。町内は坂道がほとんどなく、快適に自転車を漕ぐことができます。
それでは早速、出かけてみましょう。
冨吉建速神社・八劔社と龍照院
観光交流センター「祭人」のすぐ目の前にある赤い天王橋を渡ると、そこには冨吉建速神社・八劔社があります。須成祭はこの両社の祭礼として行われます。
祭りのない日の冨吉建速神社・八劔社はとても静かな場所ですが、再建には木曽義仲、社殿造営には織田信長、というように、節目には日本史上の英傑たちが携わったとされる由緒ある神社で、厳かな雰囲気を感じることができます。
冨吉建速神社・八劔社と隣り合う形で、龍照院という、こちらも木曽義仲に縁のあるお寺があります。12世紀に造られたとされる十一面観世音菩薩は国の重要文化財に指定されており、毎月18日のみ、限定公開されています。(1月・2月を除く、時間10:00~15:00)
甘強酒造でみりんの製造工程を見学
冨吉建速神社・八劔社から自転車で10分ほど、蟹江川に沿って河口の方向へ進んで行くと、趣向を凝らしたレンガ造りの建物と「甘強みりん」の看板が目に入ってきます。
みりんは料理に上品な甘みを加え、素材をより美味しそうに見せてくれる、日本料理に欠かせない調味料です。その材料は、もち米、米こうじ、蒸留酒(主に焼酎)で、アルコール度数も高く、日本では酒税法が適用されます。かつては高級な甘いお酒として嗜まれていたそうです。
周辺の濃尾平野で良質なもち米が収穫でき、水運による輸送網も発達していたため、この地域では古くからみりんの醸造がさかんでした。代表的な蔵のひとつである甘強酒造は、1862年創業の歴史を誇り、その歴史は登録有形文化財建造物になっている4棟の建物からも伺うことができます。
甘強酒造では、見学を申し込むと、文化財のうちの1棟である1877年築の本蔵の内部を見学することができます。この見学コースは1時間ほどで、実際の製造工程を見ながらみりんについての説明を受け、最後は商品の試飲をすることもできます(見学は英語・中国語での対応も可)。
甘強酒造のみりんは、醸造用糖類の添加を最小限に抑えているため、上品な甘さと深い味わいが特徴で、国内の高級料理店やうなぎの名店などでも使用されています。また、日本料理の世界的な人気にともなって、台湾など、海外にも展開しているそうです。商品は見学時に購入することができるほか、観光交流センター「祭人」や町内のスーパー等でも販売されています。
銭洗尾張弁財天 富吉神社で金運アップ!
甘強酒造から少し南に行くと、銭洗尾張弁財天 富吉神社という小さな神社があります。
日本では、弁財天を祀る神社の水で小銭や紙幣を清めることで、金運や財運が上がるとされてきました。鎌倉にある銭洗弁財天が有名ですが、この蟹江町の弁財天は、15世紀に鎌倉の弁財天を勧請したものとのこと。この地にあった蟹江城は、なんと、弁財天のご利益でもたらされた福銭によって築かれたという言い伝えもあるそうです。
ザルにお金を入れ、水で清めるだけなので、ぜひあなたも福にあやかってください。清めた福銭はすぐに使う方がより効果的と言われています。
サイクリングの疲れは尾張温泉で癒そう
サイクリングで町中を駆け巡ったあとは、温泉でその疲れを癒やすのがいいかもしれません。蟹江町にある尾張温泉は、圧倒的な湯量を誇り、愛知県で唯一、日本名湯100選に選ばれています。
ゆっくりと日本旅館に宿泊して蟹江の郷土料理を楽しみたいのであれば、「湯元館」がおすすめです。敷地内から湧き出る温泉は、100%源泉かけ流し天然温泉です。宿泊の方はもちろん、湯元館でお食事をされた方は無料で入浴できます。ランチもありますので(前日までに要予約)ぜひお楽しみください。
より手軽に尾張温泉の魅力に触れたいのであれば、「足湯かにえの郷」で足湯を楽しむのもよいでしょう。熱々の源泉に浸かり、足を温めることができます。足湯はだれでも無料で利用することができます(利用可能時間:10:00~20:00、定休日無し)。
足湯のすぐ前を通る歩道沿いには、著名な力士の足形が刻まれています。名古屋からほど近い蟹江町には、夏に開かれる名古屋場所の宿舎が置かれることがあり、そうした縁から、この大相撲ストリートが誕生したそうです。
歴史民俗資料館で蟹江を学ぶ
蟹江町サイクリングの旅、最後は蟹江の歴史・文化についての展示が見られる歴史民俗資料館を目指しましょう。この資料館で借りていた自転車を返却することができます。
アニメ『名探偵コナン』をご覧になったことはありますか? 世界的にも翻訳・放映されて人気となっていますが、そうした探偵アニメが生まれてくる背景には、連綿と受け継がれる日本の探偵小説の伝統があります。
その黎明期、探偵「明智小五郎」で有名な江戸川乱歩らと交流を重ねながら、探偵小説の発展に大きく貢献をしたのが小酒井不木という小説家です。そんな不木が生まれ育ったのがここ蟹江町であり、この歴史民俗資料館には不木の書や原稿などが展示されています。
不木にまつわる展示の他、「水郷のまち」蟹江町のかつての生活様式を知ることができる貴重な資料も展示されているので、興味があれば、最後に少し時間をとって館内を巡ってみるとよいでしょう(開館時間:8:30~17:00、休館日:月曜日および年末年始)。
おわりに
ユネスコ無形文化遺産(「山・鉾・屋台行事」)に登録された祭りのなかでもユニークな特色をもつ須成祭。そんな須成祭の舞台となる蟹江町は、祭りのとき以外はとても静かな町ですが、ゆっくりと川沿いを自転車で走ってみると、大都市だけを巡る観光では見落としてしまいそうな、日本の魅力に出会えるかもしれません。
JR名古屋駅からJR蟹江駅まではわずか12分(近鉄蟹江駅を利用する場合は、近鉄名古屋駅まで最短8分)。あっという間に到着します。名古屋市内に滞在中、もう少しディープな日本観光をしたくなった時は、ぜひ、蟹江町まで足を伸ばしてみてください。